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仙台高等裁判所 昭和54年(ネ)338号 判決

控訴人

三尚運輸有限会社

右代表者

市村昇二

控訴人

高崎利之

右両名訴訟代理人

濱田宗一

被控訴人

山形三菱自動車販売株式会社

右代表者

土屋武雄

被控訴人

土屋武雄

中島則義

志田悦郎

右四名訴訟代理人

小林亦治

主文

一  原判決の主文第一項を次のとおり変更する。

1  控訴人らは各自

(一)  被控訴人山形三菱自動車販売株式会社に対し金二二二万四八〇三円及びこれに対する昭和五二年一〇月二六日から完済まで年五分の割合による金員を

(二)  被控訴人土屋武雄に対し金一八六万三二六〇円及びこれに対する前同日から完済まで年五分の割合による金員を

(三)  被控訴人中島則義に対し金一九三万〇九二〇円及びこれに対する前同日から完済まで年五分の割合による金員を

(四)  被控訴人志田悦郎に対し金一七一万八八六〇円及びこれに対する前同日から完済まで年五分の割合による金員を

各支払え。

2  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  被控訴人山形三菱自動車販売株式会社の当審における新請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人らと被控訴人山形三菱自動車販売株式会社との間に生じた分はこれを四分しその一を控訴人ら、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人らと被控訴人土屋との間に生じた分はこれを五分しその一を控訴人らの、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人らと被控訴人中島との間に生じた分はこれを四分しその一を控訴人らの、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人らと被控訴人志田との間に生じた分はこれを二分し、その一を控訴人らの、その余を同被控訴人の各負担とする。

四  この判決は被控訴人ら勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

一、当事者双方の申立て

控訴人ら訴訟代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び「被控訴人山形三菱自動車販売株式会社の当審における新請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決及び被控訴人山形三菱自動車販売株式会社につき当審において請求の一部を交換的に変更(従来同被控訴人の事務管理にもとづく費用償還請求権六九二万一〇〇〇円の請求をしていたが、そのうち三一八万円について訴外五会社から同被控訴人が譲り受けた事務管理にもとづく同額の費用償還請求権に請求を変更)し、変更後の新請求として「控訴人らは各自被控訴人山形三菱自動車販売株式会社に対し、金三一八万円及びこれに対する昭和五二年一〇月二六日から完済までの年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

二、当事者双方の主張及び証拠関係

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に附加、訂正するほかは原判決の事実摘示のとおりであるからここにその記載を引用する。

1  原判決の事実摘示第二、一3(一)(4)(ロ)申原判決五枚目表八行目以下を削除する。

2  同第二、一3(二)の末尾(原判決六枚目表一二行目)の次に、次の事項を附加する。

本件事故により破損した本件車両は昭和五一年六月に発売された新型車であり、被害当時にはまだ同型の中古車が出回つていなかつたので本件車両と同型、同程度の中古車を購入して被害を回復する方法がなく、被害の回復には同型の新車を購入するほかなかつたのであるから、損害額の算定は同型の新車の購入価格、すなわち、その客観的な市場価格である店頭取引価額によるべきである。

3  同第二、一4記載のうち原判決六枚目裏一行目以下を次のとおり訂正する。

(一)  被控訴人土屋は、事故当時次のとおり被控訴人山形三菱自動車販売株式会社(以下被控訴会社ということもある。)及び後記の訴外各株式会社の代表取締役又は取締役の地位にあり、各会社からそれぞれ役員報酬を受けていた。

(1) 被控訴会社から代表取締役として月額八三万円

(2) 山形市本町一丁目九番七号訴外八千代自動車株式会社から代表取締役として月額一二万円

(3) 同市北町三丁目一番一〇号訴外八千代観光自動車株式会社から取締役として月額二三万円

(4) 同市幸町一番一号訴外株式会社ホテル山形から代表取締役として月額二〇万円

(5) 仙台市本町二丁目一番一八号訴外八千代スズキ販売株式会社から取締役として月額二七万円

(6) 同市五輪二丁目一番一三号訴外八千代商会から代表取締役として月額七万円

(二)  被控訴人中島は事故当時次のとおり被控訴会社及び後記の訴外各株式会社の専務取締役の地位にあり、各会社からそれぞれ役員報酬を受けていた。

(1) 被控訴会社から月額四一万七〇〇〇円

(2) 訴外八千代観光自動車株式会社から月額七万円

(3) 訴外株式会社ホテル山形から月額一〇万円

(三)  被控訴人土屋及び同中島は事故による受傷のため心身の障害が著しく、事故の翌日から同年八月末日までの三か月間右各会社の取締役の職務に就くことが不可能であつたから、控訴人らは右被控訴人両名に対し就労不能の三か月間の前記各報酬相当の休業損害を賠償すべき債務を負担した。

他方、被控訴会社及び前記各訴外会社は被控訴人土屋及び同中島に対し報酬契約にもとづき就労不能の三か月分の取締役報酬として次のとおりの金員をその休業の当時それぞれ支払つた。

(1) 被控訴会社 三七四万一〇〇〇円

(被控訴人土屋の報酬八三万円及び同中島の報酬四一万七〇〇〇円の各三か月分)

(2) 訴外八千代自動車株式会社 三六万円

(被控訴人土屋の報酬一二万円の三か月分)

(3) 訴外八千代観光自動車株式会社

九〇万円

(被控訴人土屋の報酬二三万円及び同中島の報酬七万円の各三か月分)

(4) 訴外株式会社ホテル山形 九〇万円(被控訴人土屋の報酬二〇万円及び同中島の報酬一〇万円の各三か月分)

(5) 訴外八千代スズキ販売株式会社 八一万円

(被控訴人土屋の報酬二七万円の三か月分)

(6) 訴外株式会社八千代商会 二一万円

(被控訴人土屋の報酬七万円の三か月分)

控訴人らは、被控訴会社及び右各訴外会社(以下訴外五社という。)の報酬支払いにより前記損害賠償債務を免れたところ、被控訴会社及び訴外五社と控訴人らとの間には事務管理が成立するから、控訴人らは右各報酬の支払いをした被控訴会社及び訴外五社に対し、免れた賠償債務と同額の有益費を償還すべき債務がある。

(四)  訴外五社は昭和五二年九月一〇日控訴人らに対する前記費用償還請求権合計三一八万円及びその附帯の遅延損害金債権を被控訴会社に譲渡し、昭和五五年九月一七日控訴人らに対しその譲渡通知をした。

4  同第二、一5の記載を次のとおり訂正する。

そこで、控訴人らに対し、被控訴会社は(一)前記3(二)の車両破損の損害額と前記被控訴会社個有の費用償還請求権合計六五二万八〇〇〇円及び(二)当審における新請求として訴外五社の費用償還請求権を譲り受けた分三一八万円の合計九七〇万八〇〇〇円及びこれに対する訴状送達日の翌日である昭和五二年一〇月二六日から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各自支払いを、被控訴人土屋は前記3(一)(4)イ及びハの合計金一〇三七万四〇七〇円及びこれに対する前同日から完済までの右同率による法定の遅延損害金の各自支払いを、被控訴人中島は前記3(一)(4)イ及びハの合計金五六三万〇〇五〇円及びこれに対する前同日から完済までの右同率による法定の遅延損害金の各自支払いを、被控訴人志田は前記3(一)(4)イないしハの合計金二六二万四九二〇円及びこれに対する前同日から完済までの右同率による法定の遅延損害金の各自支払いを求める。

5  同第二、二4の記載を次のとおり訂正する。

同4の事実のうち被控訴会社主張の債権譲渡の通知があつた事実を認め、その余の事実及び同5の主張を争う。

6  同第二、三1の記載を次のとおり訂正する。

1 被害車両の損害額について

被控訴会社は本件被害車両と同型車を扱ういわゆるディーラーであつて仕切り価格で中古車を取得しうる立場にあることを損害の算定に当つて考慮すべきである。

本件車両と同型の中古車の卸売り価格は昭和五二年一〇月当時一四〇万円であつて被控訴会社はその価格で中古車を取得することが可能であつたから損害額は右金額に限られるべきであるし、そうでないとしても新車購入の価格から使用によつて減耗した減価分を償却した事故直前の車両の時価とすべきである。事故当時の本件車両と同型の新車のディーラーの仕切り価格は二一〇万六〇〇〇円であり、これには一般附属品、標準装備品としてステレオが含まれているので、そのほかに特別に装備されたクーラーの価格一八万円を加えても二二八万六〇〇〇円である。そして本件車両の法定耐用年数は六年であつて、新車購入から事故にあうまでの使用期間七か月の法定減価償却残存率は0.799であるから、本件車両の事故当時における減価償却後の残存価値は一八二万六五一四円であり、損害額は多くともこれに限られるべきである。

7  同第二、四の末尾(原判決八枚目表三行目)の次に、次の事項及び別項として新たに次の項を附加する。

右金員は被控訴人土屋、同中島及び同志田に対し慰謝料として各一万円ずつ支払われたものの合計である。

五  右抗弁に対する被控訴人らの答弁

右抗弁事実を認める。

8 当審で新たに提出、援用された証拠とその認否〈省略〉

理由

一本件交通事故の発生と控訴人らの責任原因、交通事故にもとづく損害のうち、被控訴人土屋、同中島及び同志田の治療関係費の支出による損害についての認定判断は、原判決の認定、判断と同じであるから、ここに原判決の理由一、二、三(一)(1)の記載を引用する。

当審で新たに取り調べた証拠によつても以上の認定及び判断を覆すにいたらない。

二被控訴人志田の休業損害については、〈証拠〉によれば、被控訴人志田は事故の当時被控訴会社の従業員として雇用されており、自動車運転の業務に従事して月額九万二〇〇〇円の給与を支給されていたが、本件事故による受傷により事故の日の翌日から昭和五二年八月末日まで就労することができず、その間賃金の支給がなく就労すれば得られた筈の賃金二八万一二二〇円相当の得べかりし利益を喪失したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

同被控訴人は本件事故により右と同額の休業による損害を受けたことが明らかである。

三次に被控訴人らの慰謝料について検討する。

〈証拠〉によれば次の事実が認められる。

すなわち、被控訴人土屋は当時六六才であつて被控訴会社の代表取締役の外に被控訴会社主張の訴外五社の代表取締役又は取締役を兼ねてそれぞれの会社の事業経営に当つていた者、被控訴人中島は事故当時五六才であつて被控訴会社の専務取締役のほかに訴外五社のうち二つの会社の専務取締役を兼ねてそれらの会社の事業経営に当つていた者、被控訴人志田は事故当時五八才であつて被控訴会社の従業員として雇用され同会社の社長専用車の運転手として稼働していた者であるが、同人らは本件事故によりそれぞれ被控訴人ら主張のとおりの傷害を負い、事故当初の診断は軽かつたが間もなく重い症状が顕われ、そのため、入院はしなかつたものの、事故後三か月間は絶対安静を要する療養を強いられ、その聞は全く稼働できなかつたばかりかその後も約七か月余にわたり通院加療を必要とし、被控訴人土屋の場合はさらに事故後半年間はほとんど出社できず、肩こり、手のしびれ、頸部痛、軽度の頸部運動制限等の症状があり、事故後約一年をすぎた後も右の後遺症があること、被控訴人中島の場合は、事故の三か月後頃から出社して短時間就労することが可能になつたが、しばらくは右膝下の痛みのため歩行困難をともない、事故後約一年をすぎた後も頸部及び腰部の運動制限、腰部疼痛等の症状が残つていること、被控訴人志田の場合は事故後三か月をすぎて出社しほぼ平常どおり勤務することができるほどに回復したが肩こり、頭重等の症状が続き、約一年をすぎた後も軽度の頸部運動制限、肩こり、頸部痛等の症状が残つていることの各事実を認めることができ、この認定を動かす証拠はない。

右傷害の程度、治療経過、生活阻害の状況、後遺障害の程度、被控訴人らの地位等の諸般の事情、本件事故の態様及び被控訴人ら三名に対しすでに一万円ずつ慰謝料が支払われている事実(この点当事者間に争いがない。)をも勘案するときは、慰謝料の額を、被控訴人土屋について一五〇万円、同中島について一三〇万円、同志田について一〇〇万円とするのが相当である。

四被控訴会社の本件車両破損にもとづく損害について検討する。〈証拠〉によると本件車両は被控訴会社が昭和五一年一〇月これを新車で購入し登録してそれ以来事故にあうまで約七か月間にわたり社長の専用乗用車として使用してきた車であり、ステレオ等の標準装備品のほかにクーラーを装備していたが本件事故により大破し日本自動車査定協会により査定を受けた結果破損した後の車は全損扱いとなり一万円の残存価値しかないと評価されたことが認められる。

また〈証拠〉によれば、本件車両と同型の車両は昭和五一年六月に発売された新型車で本件事故当時はまだ発売後日が浅いために中古車取引きの基準となる市場価格が形成されていなく、昭和五二年一〇月にいたつてようやくその市場価格を示す資料が公刊されたことが認められる。

以上の各認定を覆す証拠はない。

したがつて、本件においては事故当時本件車両と同型、同程度の中古車を代車として購入することにより被害を回復するとした場合に幾らの費用を要するかについてその基準となるべき資料がなく右の方法によつては損害の算定をすることができないから、このような場合には車両の新車としての価格から事故時までの年数経過や使用による減損分を控除するという方法により事故当時の価格を算定し損害算定の基準とすべきものと考える。

本件車両は新車で購入されて事故時までに約七か月間被控訴会社の社長専用の乗用車として使用されてきたものであることは前述のとおりである。〈証拠〉によると本件車両が新車として購入されたときの価格は車本体の価格と一般附属品、ステレオ及びクーラー(二〇万円)を含めて二七九万七〇〇〇円と評価されることが認められる。

成立に争いのない甲第四五号証、前顕乙第二号証の一、二及び乙第一〇号証の一、二には右の金額と異なる記載があるけれども甲第四五号証及び乙第一〇号証の一、二の記載金額はいずれも本件車両の購入時とは評価の時期を異にするもので本件車両の評価の基準とはならないし、乙第二号証の一、二に記載の金額は課税標準の価額であつて必ずしも市場取引きの価額とは合致しないと思われるのでこれも基準性をもたないと思われる。

〈証拠〉には、乙第二号証の一、二記載の課税標準額が自動車メーカーの標準仕切り金額である旨の記載とクーラーの課税標準額が一八万円である旨の記載があるけれども物の破損による損害の算定に当つては一般の取引きにおける物の市場価格を基準とすべきであり、メーカーや販売会社の仕切り価格を基準とすべきものではないと考えられるし、また、クーラーの課税標準価格は一般の取引き価格と必ずしも合致しないと思われるのでいずれも採用できない。ほかには右の認定に反する証拠はない。

しかして、〈証拠〉によると、本件車両の法定耐用年数は六年であり、七か月間使用の減価償却後の残存率は0.799であることが認められるので、特段の事情の認められない本件においては本件車両は事故当時それまでの年数経過や使用による減損分を控除して右同率の残存価値を保有していたものと認められ、その価格は二七九万七〇〇〇円に0.799を乗じた二二三万四八〇三円となる。そして、本件車両は事故の結果破損し一万円の残存価格まで減じたから結局その差額二二二万四八〇三円が本件車両の破損による損害というべきである。

五次に被控訴人土屋及び同中島に対する取締役報酬の支給を原因とする被控訴会社の請求について考察する。

1 先に三において認定したように、本件事故の当時被控訴人土屋は被控訴会社の代表取締役のほかに訴外五社の代表取締役又は取締役に就任しており、また被控訴人中島も被控訴会社の専務取締役のほかに訴外五社のうち二つの会社の専務取締役に就任していたが、本件事故により負傷したため事故後三か月間はそれらの会社の取締役としての事務に従事することができなかつた。

しかして〈証拠〉によれば、(一)被控訴会社は本件事故に原因して被控訴人土屋から昭和五二年六月より八月までの三か月間にわたり代表取締役としての委任事務の履行を受けることができなかつたが、報酬契約にもとづき右三か月分の取締役報酬として毎月八三万円ずつ合計金二四九万円をそのころ支給し、また被控訴人中島に対しても同様に取締役としての委任事務の履行を受けることができなかつたが、右期間内の取締役報酬として毎月四一万七〇〇〇円ずつ合計金一二五万一〇〇〇円をそのころ支払つたこと、(二)被控訴会社主張のとおり訴外五社は被控訴人土屋に対し、また訴外五社のうち八千代観光自動車株式会社及び株式会社ホテル山形はさらに被控訴人中島に対し、いずれも前同様に、右被控訴人らから取締役としての委任事務の履行を受けることができなかつたが、前記期間内の取締役報酬として被控訴会社主張の金額(その全体の合計額は三一八万円)を支払つたこと、(三)訴外五社は右被控訴人らに取締役報酬を支給したことにより控訴人らのための事務管理が成立し、支給金額と同額の費用償還請求権とその附帯の遅延損害金請求権を取得したとして被控訴会社に対し、その主張のとおりこれらの債権を譲渡したことが認められ、訴外五社から右債権の譲渡について控訴人らに対し債権譲渡の通知がなされたことは当事者間に争いがない。

2  しかし、被控訴人土屋及び同中島(以下、ここでは土屋らという。)は本件交通事故により負傷し、一定の期間被控訴会社及び訴外五社(以下、ここでは被控訴会社らという。)の取締役としての事務につくことができなかつたけれども、土屋らは被控訴会社らとの間に結ばれた取締役の報酬契約(取締役を委嘱する委任ないし準委任契約に附随する契約)にもとづき、実際にその事務の執行ができたか否かにかかわりなく被控訴会社らから報酬の支給を受けることができ、したがつて取締役の報酬に関する限りでは同人らに収入の喪失による損害が生じなかつたのである。

したがつて、被控訴会社らの右取締役報酬の支給は報酬契約にもとづく債務の履行としての給付であつて、土屋らが事故により休業したことにもとづく収入の損失を補填し、ないしは補償する意味を全く帯有していないといわざるをえない。

してみると、右取締役報酬の支給をもつて、被控訴会社らが控訴人らの土屋らに対する休業損害の填補義務を、事務管理として履行したものと解する余地はないし、その他に控訴人らには不当利得等の理由によつても、右取締役報酬の支給に関し、被控訴会社らに対してその弁償をなすべき義務があることを見出し難い。

よつて、右取締役報酬の支給を原因とする被控訴会社の請求(従来からの請求である自社支給分の三七四万一〇〇〇円及び当審における新請求である訴外五社支給分三一八万円)は全部理由がなく、これを棄却すべきである。

六結論

1  以上に説示したところを総合すると、被控訴人らが控訴人らに対して各自支払いを求めることができる損害賠償請求権及びその附帯の遅延損害金請求権の内容である具体的な金額は次のとおりである。

(一)  被控訴会社

車両破損の損害(前記四) 二二二万四八〇三円

(二)  被控訴人土屋

(1) 治療関係の損害(前記一及び原判決理由三(一)(1)) 三六万三二六〇円

(2) 慰謝料(前記三) 一五〇万円

合計  一八六万三二六〇円

(三)  被控訴人中島

(1) 治療関係の損害(前記一及び原判決理由三(一)(1)) 六三万〇九二〇円

(2) 慰謝料(前記三) 一三〇万円

合計  一九三万〇九二〇円

(四)  被控訴人志田

(1) 治療関係の損害(前記一及び原判決理由三(一)(1)) 四三万七六四〇円

(2) 休業損害(前記二) 二八万一二二〇円

(3) 慰謝料(前記三) 一〇〇万円

合計  一七一万八八六〇円

(五) 以上の各金額に対する訴状送達後であることが記録上明らかな昭和五二年一〇月二六日から完済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金

2  被控訴人らの請求は、右1の限度で理由があり認容すべきであるが、その余は理由がなく棄却すべきであるから、原判決のうち被控訴人らの従来の請求を右の限度をこえて認容した部分は不当であり、本件控訴は一部理由がある

そこで、民事訴訟法三八六条により、原判決の主文第一項をこの判決の主文第一項のとおり変更し、被控訴会社の当審における新請求を棄却し、訴訟費用の負担につき同法九六条、九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(小木曽競 伊藤豊治 井野場秀臣)

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